カモメのつぶやき

好きな映画や本のことを書きます。あとアメリカに留学してたこともあるので、留学や英語にいつても書くことがあります。

漫画『火の鳥』大きな力に翻弄される人間たちの運命を描いた傑作文学

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 漫画史上数々の漫画が生まれ、傑作も数えきれないほどあります。

 その中でも、ベストオブベストに選ばれる作品のひとつがこれ。

火の鳥』です。

 『火の鳥』は、漫画の神様の手塚治虫がライフワークとして描いていた漫画です。

 そのスケール感、哲学、構成、何から何までひとりの作家が描いたとは思えないほどです。

 基本的には各編バラバラの時代が舞台の独立した話になってます。

 時系列的には、最も過去である「黎明編」がスタートし、次に最も未来の話である「未来編」、その後は過去と未来を交互に行き来して、最後は現代つながる構成になっている。しかしラストの「現代編」まで描かれることなく手塚治虫は途中で死んでしまいました。

 

容赦なく死ぬキャラクターたち

 伝説の鳥である「火の鳥」。その血を飲めば永遠の命を持てる、といわれています。その火の鳥をめぐる壮大な物語が、この漫画です。

 キャラクターたちは永遠の命を求めつつ、作中バンバン人が死にます。主人公クラスかと思われるキャラスターも、容赦なく死にます。この容赦なく死んでゆくキャラクターたちに、パンデミック禍の我々の運命を重ねることができます。本質的には、我々の命もコロナ関係なく、いつ果てるともわかりません。『火の鳥』は、物語を通して、そのことを教えてくれます。

 

火の鳥の性格は最悪説

恐ろしいのは、火の鳥の価値観

 火の鳥は人とコミュニケーションをとることもできる超生命体です。人間の自業自得なところもあるんですが、数々の罪に対してものすごい罰を与えます。

 人類絶滅、果肉植物にする、望まない不老不死を与える、数世代にわたって醜い顔にする呪い、二度と人間には生まれ変わらずミトコンドリアや亀や鳥にする刑、等々。 

 そこまで悪いことしたかなーって場合も多いんです。例えば火の鳥最高傑作の呼び声の高い「鳳凰編」。我王という盗賊と茜丸という名高い彫刻家(仏師)が登場します。我王は偶然あった茜丸の利き腕であり仏師の命である右腕を切りつけ、茜丸の右腕は再起不能になります。時がたち、左腕で復活した茜丸は天下の仏師としてブイブイいわせるようになります。かつてはピュアなアーティストだった茜丸は、ビジネスマンとして頭角を表し今でいえば超大物プロデューサーとして名を馳せます。

 一方我王もさまざまな経験を経て、仏師になり茜丸以上のアートを作り出す天才として茜丸の前に立ちはだかります。二人は、お寺の瓦を作る対決します。茜丸は我王の天才に勝てないと悟り「この我王は私の腕を切りつけた悪党でかつては都を騒がせた人殺しもした悪人です」と訴え、我王は罰として腕を切り落とされます。その後茜丸は寺の火事で焼死。輪廻転生される火の鳥の世界において、茜丸は二度と人間にはなれないことを火の鳥から教えられます。

 茜丸。悪ことしてないんですよ! 勝負に負けそうになり過去の我王の罪をチクリましたよ、たしかに。でもそれだって我王の自業自得じゃないですか。

 この無情感。小学生のとき読んだ私は、その火の鳥の裁きに恐れまくりました。善悪じゃないよ、この鳥の価値観は。

 火の鳥は、人間の愚かさを許すことはありません。それどころか、人を殺しまくったけど悟りを開いた才能のある我王より、世俗的な価値に目が眩んだ茜丸の方が、火の鳥基準でいうと「悪」となるんです。我王、なんで火の鳥から気に入られてるだよ…。我王に課せられた運命もそれなりに過酷だとは思いますが、茜丸の方が悪いと思えないんです。

 恐ろしいです。はっきり言って永遠の命どころか、火の鳥と関わったら最後。死亡決定。無理ゲーです。

 そういう選択肢のない大きな力に翻弄される人間っていうのが、このコロナ禍に読むとすごく心に染みていくんです。不思議ですね、文学の力って。

 っていう漫画です。

 

 今回言いたいことはこのくらいです。